『TAMA VIVANT Ⅱ 2021 —呼吸のかたち・かたちの呼吸—』
「Recovery roomーましましいねつるかも」
2021 11.8-11.17
多摩美術大学八王子キャンパスアートテークギャラリー 1F、東京
ギャラリー空間を病から回復するための Recovery room(処置室)に見立て、脳の信号や臓器の循環をサウンドとともにインスタレーションで展示。副タイトルである「ましましいねつるかも」(少しのあいだ眠っていたかのようだ)とは治癒を司る古代の神スクナヒコナが病から回復した際に発した言葉である。病は何人にも逃れることのできない通過儀礼のようなものだと考える。この通過儀礼を終えることにより、我々はきっとトランスフォーメーションし新たな世界を歩みだすであろう。
展示は主に 3 つの要素によって成り立つ。
❶多チャンネル再生によるサウンドインスタレーション
脳痙攣患者の脳波データを楽譜に起こしてピアノ演奏したものを、脳波採取時に頭部に設置する電極の位置に対応するようにスピーカーをアクリル板に取り付け同時再生したもの。楽譜・制作演奏は音楽家の久保田翠に依頼。
脳痙攣は患者の脳内で繰り広げられる異常信号でありそれは波形でしか読み取ることができない。それを音楽として共有するものである。
❷蒲黄と振り子を使ったオブジェ
蒲黄は古事記に記載がある日本の最古の薬とされており、蒲の花粉から採取される傷薬である。
蒲黄は粉体であるが、それを四角形に押し固めその中心をめがけ表層ギリギリに振り子をぶら下げる。振り子が振幅することによって粉体の表面をこすり幾何学的な文様を描き出す。また、振り子を吊り下げる糸に羊の腸で作られたガット弦を使用することにより、湿度の変化によってうまれる糸の張りの微妙な変化なども、描き出される文様に微差を与える。薬と病態の揺らぎやすい関係性を視覚化したもの。
❸木蝋やタイルなどを使用したインスタレーション
タイル貼りの箱に乗せられたオブジェを一つの単位とし、それらをゴムチューブによって繋ぎ合わせた作品。木蝋は和ろうそくの原料でハゼの実から採取される植物蝋である。その質感が人間の肌感と近く生理的な部分を喚起させる素材である。このような特性のある素材を使用し、明確には認識できない体内の循環のようなものをイメージして制作した作品。展覧会場には所々「蛾」のモチーフが現れるが、これはスクナヒコナが蛾の衣を着ていたという逸話から発想を得て、今回の展示の治癒のアイコンとしての役割を担っている。
2021
蒲黄、振り子、蛾、アクリル、ミキサー、スピーカー、楽譜、タイル、ハゼ蝋、ゴムチューブ、図鑑、等
Gamma pollen (Chinese medicine), pendulum, moth, acrylic, mixer, speaker, sheet music, tile, goby wax, rubber tube, illustrated book, etc.