家族という共同体の場である「イエ」は、利益を追求する現実社会――すなわち資本主義社会――から隔離された空間として機能している。このような社会とイエとの切断は、資本主義の深化によって生じた社会的な歪みや、家制度の崩壊を経て出現した核家族のあり方に起因していると考えられる。

しかし実際には、イエが現実社会と完全に切断されることはあり得ない。人間は本質的に社会的存在であり、人間にかかわる営みで社会と無関係に成り立つものは一つとして存在しない。イエもまた一つの社会であるが、それ自体で自立しているわけではない。たとえば日々の出勤や買い物といった営みを思い浮かべれば明らかなように、家族は外部の現実社会における生産と消費の仕組みと密接に結びついているのである。

イエをこのように捉え直すと、一見すると自立的に見えるその在り方が、実はきわめて擬制的なものであることに気づかされる。私が「開封するイエ」シリーズにおいて「切断」という暴力的手法を用いたのは、まさにその擬制性を可視化するためであった。

この連作では、古着や古食器といった日用品をパラフィンで直方体に封じ込め、それを家屋の形に切り出して制作している。その際、内部の事物の断面が表面に鮮やかに浮かび上がるよう意図することで、社会から切り離されたかのように見えるイエの自立性が、実は演出されたものであることを示そうとした。また同時に、その“切断”がもつ暴力性を強調することで、イエが社会との関係を断ち切ることによって成立しているという否定的側面を、視覚的に浮かび上がらせようとしたのである。

ベンヤミンの概念を借りれば、イエを成り立たせているものは、核家族という近代的家族像に支えられた「家族イデオロギー」であり、それは一種の「神話的暴力」に他ならない。もしそうであるならば、この暴力を否定的に暴き出すもうひとつの暴力――すなわち、あらゆるイデオロギーを無化する力――は、「神的暴力」と呼ばれるべきものである。そして私にとって、善悪の枠組みを超えたこの「神的暴力」の発動にこそ、芸術の本質が宿っていると考えている。