「〈疾患〉と〈治癒〉ー通過儀礼としてのイナバノシロウサギ説話」
2019 6.1-6.15
ギャルリー東京ユマニテ
わたしは、イナバノシロウサギの説話を通過儀礼として捉えている。小島に流れ着いたウサギが、ワニザメ(1)に皮を剥かれるという試練を経て、ウサギが神に変じる過程である。詳しくは、このあとにしるす「あらすじ」をみていただきたいが、赤剥け状態にされたウサギは、オオクニヌシに教えられて、蒲の花粉を体にまぶすことで傷を癒し、兎神へとトランスするのだ。ここにみられる過程はアルノルト・ファン・ヘネップが教える通過儀礼の三局面「分離-過渡-再統合(re)」と合致する(2)。
このインスタレーションでは、苦しみを伴う修練が行われる過渡を「疾患」として捉え返し、再統合に相当する兎神となる段階を「治癒」とみなすことで、治療を単なるリハビリテーションとしてではなく「リカバリー(recovery)」として捉え返すことを試みる。
通過儀礼を終えた個人は社会に再統合されるわけだが、その存在は以前とは大きく異なるものとなる。これがリカバリーである。この語は、障害があっても充実した生活を送ることができる能力と定義される精神医療用語であり、治療の目標は、患者を単に「疾患」以前の状態に戻すことではなく、別の在り方へと転化していくことにあるとする発想だ。病気や事故や災害などで状態が大きく変化したとき、何もなかったかのように元の状態に戻そうとするのではなく、「疾患」を梃子として、それまで以上に生き生きとした別の状態をもたらすことを以て「治癒」とみなすのである。
2019
映像、縮緬本、石、ラビットファーコート、医療用パーテーション
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